第10回日独ジョイントレクチャー開催報告「倫理学としての人間の学?-和辻倫理学再考」(7/19・ハイデルベルク)


2018年7月19日に、第10回 日独ジョイントレクチャー「倫理学としての人間の学?-和辻倫理学再考」を開催しました。ハイデルベルク大学にゆかりのある研究者のほか、ドイツ国外の学生等、約40名の参加がありました。
本レクチャーでは京都大学人間・環境学研究科の安部浩教授が、近代日本哲学の最も優れたアプローチの一つである和辻倫理学について講演しました。

会場となったハイデルベルク大学の大ホール(アルテ・アウラ)は、和辻哲郎が生まれる3年前の1886年にハイデルベルク大学の創立500周年の一環として現在の姿に修復された場所です。

記念すべき第10回目の開催となる本レクチャーでは、冒頭でハイデルベルク大学のディーター・ヘーアマン副学長(国際担当)より開会の挨拶をいただきました。ヘーアマン副学長からは日独ジョイントレクチャーや国際共同修士学位(JDTS)を通じた交流など、両大学の緊密な交流が紹介されました。

続く講演では安部教授が、まず和辻哲郎の人生や彼に関する後世の研究について紹介した後、ドイツ滞在が和辻に与えた影響について説明しました。そして、アリストテレスの「政治学」や中国古典の「論語」等から着想を得た和辻の倫理概念を定義しました。和辻が倫理を「人間の学」として理解した理由については、「対人関係を分析することによって、和辻は時間と空間に依存する道徳から独立した普遍的な価値観を見つけようとした」のだと説明。そして和辻がこの普遍的な価値観の妥当性を証明するため、例えばすべての人間の行動の基礎となる宗教における空の概念を比較するなど、「価値観」から既存の道徳的システムを演繹しようとしたことなどを述べました。

コメンテーターに迎えたイェンス・ハイゼ講師(ハイデルベルク大学哲学科)は、和辻の双方向アプローチや宋明理学への傾倒を批判しつつ、人間学を普遍的な倫理への道として使う方法の興味深さを指摘しました。そしてさまざまな視点から哲学を見た上で、安部教授による和辻研究の独自性とともに、違った側面からアプローチすることによって和辻倫理学のさらなる理解に繋がる可能性を強調。ハイデッガーやガダマー等の哲学者による「ヨーロッパ以外に哲学は存在しない」という評価は正しくなく、むしろこれに反論するカール・ヤスパースの論を支持すると述べました。

解説の後は聴衆から質問が相次ぎ、安部教授とハイゼ講師と聴衆を交えた議論を行いました。この分野に精通していない人にとっては少し難解なテーマでしたが、安部教授の和辻の業績への深い理解、そしてアジアとヨーロッパの哲学についての幅広い知識に基づく講演、またハイゼ講師による解説のおかげで、幅広いバックグランドを持つ聴衆にもわかりやすいレクチャーとなりました。

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講演の様子 参加者からの質問に答える安部教授とハイゼ講師

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