【参加報告】第9回APRU Multi-Hazards Symposium

イベント名 第9回APRU Multi-Hazards Symposium
開催日 2013年10月28日-29日
開催場所 台湾大学(台湾)
参加報告者 農学研究科地域環境科学専攻
農村計画学分野博士後期課程2年 佐々木 孝子

 

はじめに:応募の経緯とアブストラクトの概要

 

机の上に置かれたちらしに,私の目は引き付けられた。APRU(環太平洋大学協会)の第9回リサーチシンポジウムが,マルチハザードをテーマに台湾大学で開催されるという。6月半ばのことである。

私は台湾における住民参加型のまちづくりを研究しており,前年に,極端気象適応社会を扱うGCOEプログラムを履修したことから,8月に台湾で,防災をテーマとしたワークショップを実施する計画をたてていた。まだ台湾で発表する機会がなかった私には,テーマといい,開催場所といい,すべてが応募を勧めているように思え,「防災は学位論文に関係ない,D2でそんなに手を広げては収拾がつかなくなるのではないか。」という指導教官の心配をよそに応募し,果たして,7月の初めに,国際交流課の横田さんから派遣決定のお知らせをいただいたのである。

アブストラクトは,コミュニティベースにおける住民の防災意識の水準を考える内容とした。台湾では,住民の防災意識の向上が課題となっており,現在実施されている農村再生計画に基づいて,コミュニティ単位で住民が作成する地域発展計画にも,防災に関する内容が盛り込まれる決まりになっている。しかし,防災意識の低さを検証するような事例研究はなく,また,農村再生計画に関わる地域計画を分析した研究も目下見当たらない。そこで,これらの計画の内容を,防災の面から分析することで,現在の住民の防災意識の水準を考察しようとしたものである。この時入手していた111個の地域計画から防災に関係する箇所を抜粋して分類してまとめるのに,渡航や防災ワークショップの準備等も重なって予想以上に時間がかかり,結局,8月末日の締切時間間際に,防災ワークショップに参加した台湾の学生たちに応援されながら,脂汗を流しながらの提出になった。

 

APRU参加

 

第1日:10月28日(月)

9時ごろに会場に着き,レジストレーションを済ませて会議場に入る。台湾大学には何度か来ているが,この建物は初めてなのできょろきょろしていると,日本人も少なくなさそうだった。

台湾大学の楊?池学長,APRU事務局長のC.Tremewan博士とAPRU2013組織委員会長の譚義績博士のスピーチによるオープニングセレモニーの後,記念撮影があり,それからコーヒーブレイクになった。この時は,ゲストスピーカーで来られていた京都大学工学研究科の角哲也先生とお話させていただき,コミュニティ・デベロップメントと人口構成の関係や,限界集落についての日本と台湾の見解の違い等,ハザードというテーマを越えた知見を得ることができた。専門分野に留まらない国際集会ならではの経験である。

キーノート・スピーチは,李鴻源博士とRoger Wakimoto博士だった。李鴻源博士は,都市環境工学をご専門とされ,台湾大学の教授等を経て,現在は行政院内政部部長として,都市部を中心に防災政策を進め,今年3月には京都大学防災研究所に講演に来られた方でもある。スピーチでは,台湾の地形・気候的条件から,現在の防災政策の内容と成果までをわかりやすい言葉で明快に解説された。台湾の防災政策には,ハード整備を積極的に進めながら,大きな災害のたびにその成果が崩れるという弱点があるが,それを直視し,改善するという視点から防災を論じたものはあまり見られない。しかし,李博士は,はっきりとその弱点を指摘し,政策でなすべき事項とその成果について具体的に示しておられた。私が台湾を羨ましく思うのは,例えばこのような人材登用を見る時だ。

午後は,ゲストスピーカーによるスピーチだった。防災は専門外で,専門用語も英語では聞きづらかったが,角先生の,京都を事例にしたお話は興味深かった。京都は観光地という印象が強く,まして地元で,研究対象として見ることは殆どないので,工学の立場から解説されると,京都の歴史が治水の歴史と重なることが実感できた。

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会場:台湾大学集思会議センター

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レジストレーション

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楊洋池学長

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譚義績博士

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角先生とお話させていただく

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李鴻源博士

 

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学生ボランティアも入っての記念撮影

 

第2日:10月29日(火)

2日目は発表で,オーラルセッションとポスターセッションがあった。オーラルセッションは9組あり,私はセッション3で,8:20からの朝一番の組である。テーマは「災害マネジメントと教育」で,大阪大学の大谷順子先生による「Human Security and Natural Desasters」で,防災を人間の生きる権利から鳥瞰するようなご発表から始まり,ネパールのTribhuvan大学のAdhikari博士による治水を巡るネパールの防災政策,台中教育大学の林明瑞教授による防災リテラシーの測定尺度の開発,東北大学の村尾修教授によるポスト阪神大震災に向けた東北大学災害科学国際研究所の活動報告,政治大学(台湾)の許瓊文教授による災害報道におけるメディアの役割を論じる等多彩な発表に続いて,最後が私の「コミュニティ地域開発計画に見る住民の防災意識の傾向」だった。いただいた質問は「日本人のあなたがどのようにして台湾のこんな詳細な資料を得たのか」というもので,専門分野外での,地域研究の発表の難しさを痛感すると共に,自分の未熟さを反省するものになった。

午後は,知り合った台湾や中国の留学生の人たちの発表があるセッション7「災害の再建と復興」を聞きにいった。災害時に取り残された人たちを発見するきっかけになったマスコミの報道を事例に,災害時において期待されるメディアの役割や,災害復興を促進する役割を担いうる NPOの活動報告等,「防災」と一括りにできない様々な分野があることを知り,本当に面白かった。

15時からは,APRUの活動について,コミッティの先生方のパネルディスカッションがあり,社会にAPRUがどう貢献できるのかといった議論がされ,それに続くクロージングセレモニーで,来年度のチリでの再会を期して,2日間 のリサーチシンポジウムが終わった。

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緊張の発表

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知り合った京大留学生の李さん

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オーラルセッションの様子

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コミッティのパネルディスカッション

 

おわりに

 

専門分野を超えて自分の研究を発表できること,幅広い分野の人たちと知り合えることも,このような国際集会の魅力である。今回,第一線の先生方の,視野が一挙に広がるようなものの見方のほか,医学,心理学等一見関係がないように思える学問分野の防災への関わりを学べたことは,目からうろこが落ちると同時に,物事を簡単に考えてはいけないと,気を新たに引き締めるものであった。台湾は,自然条件から見ると,日本よりも自然災害の危険性が高いという見方もあり,台湾の参加型まちづくりを研究する上で,災害への備え,或いは復興という視点は大切なものである。台湾においては,住民参加型のまちづくりと,住民参加型の防災は,往々にして別々に研究が進んでいる印象がある。現在,台湾で実施した防災ワークショップを題材に,両者を関連させられるような論文をまとめようと考えており,直接学位論文には関係しなくても,住民本位の地域計画にどのように防災が関わっていくのか,さらに考えていきたいと思う。

また,留学生の人たちと,住民参加型,或いはNPOやマスコミの関与による災害復興を含めたコミュニティ・デベロップメントのあり方を話し合うほか,「緊張して思うように話せなかった」「自分の研究はまだまだだなあと思った」等,お互いに自分一人が悩んでいるのではないと意を強くし,今後の情報交換を約束する等,普段の研究室ではできない交流ができたことも大きな成果だった。

最後になりましたが,今回APRUに参加させてくださった京都大学の森国際交流推進機構長と,国際交流課の方々に,心から感謝を申し上げます。国際連携掛の横田さんには,応募から,帰国後までのいくつもの手続き等に心強いサポートをいただきました。本当にありがとうございました。

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沢山の点心が並ぶ台湾的コーヒーブレイク

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シンポジウムディナー

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シンポジウムディナー

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ポスターセッションでは3分間の発表の
時間があり,活発な意見交換がされていた。

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どんな場合でも陽気で親切な台湾大学の
学生ボランティアたち

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