異文化に触れ自らを相対化する ーヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラムによるインターンシップ


本学の情報学研究科社会情報学専攻の修士2回生に在籍中の高比良健太郎さんと、工学研究科建築学専攻の同じく修士2回生に在籍中の浜辺里美さんは、2017年4月から2018年3月までの約一年間、日欧産業協力センターが実施するヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム*を活用しそれぞれイギリスとベルギーに留学、現地企業でインターンシップを経験されました。
このたび、帰国されたお二人に詳しく話を伺いましたので、ここに紹介します。(2019年3月5日)

 

高比良健太郎(たかひら けんたろう)| 京都大学情報学研究科社会情報学専攻

浜辺里美(はまべ さとみ)     | 京都大学工学研究科建築学専攻

 

 

まずは、お二人がヴルカヌス・イン・ヨーロッパに応募された経緯を教えてください

高比良さん:私は、情報学研究科の掲示板を見てこのプログラムを知りました。実は、学部3回生のときにも海外(ストックホルム)へ一年間留学しているのですが、留学を踏まえて、就業経験という学業とは違った海外経験をしてみたいと思っていました。そうしたところ、ヴルカヌス・イン・ヨーロッパの企業研修が目を引いたというわけです。

浜辺さん:私は、所属研究科から送られてくるニュースレターでこのプログラムを知りました。当時は修士1回生で、建築を勉強するためイタリアに留学していたのですが、できればいつかヨーロッパで働いてみたいなという想いを抱き始めていたころでした。ちょうどそのとき、このプログラムの企業研修を知ることができたのは幸運だったと思います。

 

お二人とも企業研修に大きな魅了を感じたのですね。このときから民間企業で働くことを意識されていたのでしょうか。

高比良さん:いえ、ヴルカヌス・イン・ヨーロッパへの応募時点ではまだ民間企業に絞っていたわけではなく、博士課程の進学も視野に入れていました。ただ、私は情報学を専門にしているので、仮に進学したとしてもいずれポスドクなどなんらかの形で海外で働く機会もあるかなと思っていました。なので、そのための準備というか、色々な経験を積むために留学しておいても決して損ではないかなと。

浜辺さん:私は民間企業へ就職しようと決めていました。

 

その後、どのようにして渡航先が決まったのでしょうか。

高比良さん:当時は研修希望を二つまで出せたのですが、当然ながら、自分の専門性にマッチする企業はおのずと限られます。つまり、消去法でイギリスとフランスが残ったというのが実情です。また、派遣先は自分で選ぶことができず、先にオファーを出した企業が優先される仕組みになっていました。結果的に、イギリスからオファーを頂いたというわけです。

浜辺さん:私も同様で、自分の専門とマッチするのはドイツとベルギーの企業しかなかったため、この二つで希望を出しました。個人的にはどちらでもよかったのですが、ベルギーから先にオファーをいただくことができました。

 

ヴルカヌス・イン・ヨーロッパでは、企業研修の前に4ヶ月の語学研修があったと思うのですがいかがでしたか。特に、浜辺さんはオランダ語研修ということで特に苦労されたのではないでしょうか。

高比良さん:私はボーンマスの語学学校で英語研修を受けました。週5日、1日4時間のスケジュールが組まれていましたが、いずれの曜日もお昼過ぎに授業が終わるので、午後は比較的時間に余裕を持つことができました。

浜辺さん:私の場合は少し苦労しました(苦笑)。少し特殊なケースかもしれないので詳しくお話しすると、まず、ボーンマスで英語研修を一ヶ月半、オランダのフフトでオランダ語研修を二ヶ月半受けました。高比良さんがいうように、語学学校自体はそれほど大変ではなかったのですが、授業が終わった後もオランダ語の学習に時間を割きました。ただ、企業研修先(ベルギーのアントワープ)で話されているのは「フラマン語」と呼ばれる別のオランダ語なので、最初は会話が聞き取れないことが多く大変困りました。そういった状況だったので、企業研修が始まってからも個人的に語学学校へ通い、現地語の習得を心がけていました。

 

続いて、企業研修の様子をうかがっても良いですか。

高比良さん:私の研修先は、イギリスのエンジニアリングソリューション企業(Actavo)で、工場の生産性向上のためのデータ抽出やSQLサーバーの構築・解析などに携わっていました。工場はイギリスの各地にあるので出張機会も多かったです。私自身はリーズに配属になったのですが、研修の途中で上司が退職するというハプニングがあり、新しく担当になった上司はアイルランドのダブリンに住んでいたので、直接会うことができず苦労しました。主にはスカイプでコミュニケーションを取っていましたね。

浜辺さん:私は、ベルギーの建築設計事務所(OSAR architects)で模型製作や内装デザイン、部分詳細図の作成、コンペティション案の作成などの業務に主に携わりました。常に3つくらいのプロジェクトチームに所属させてもらい、研修期間を通じて8つくらいのプロジェクトのお手伝いをしました。仕事の波が激しく、大変な時期には徹夜もしましたが、企業の同僚はとても優しく多くを教えてくれました。業務内容はまずオランダ語で聞いて、わからなかった場合は英語で聞くようにしました。

お二人とも、忙しくも充実した毎日をお過ごしだったようですね。最後に、ヴルカヌス・イン・ヨーロッパがどのように自分の将来に影響を及ぼしたと思いますか。率直な感想を教えていただければと思います。

高比良さん:私は、このプログラムの企業研修を通じて、同じ目標に向かって異なる文化的背景を持った人たちと切磋琢磨するという環境を手に入れることができました。これはおそらく、他の交換留学では十分に経験できなかったと思います。また、就職活動を行うにあたって、私は海外滞在歴が応募時に必須である選考過程で採用を頂いたので、文字通り、このプログラムによって新たな未来が開かれたといっても言い過ぎではないかもしれませんね。

浜辺さん:私も、ヴルカヌス・イン・ヨーロッパを通じて多くの示唆を得られたと思っています。というのも、建築というのは、当然ながらその国の法律や風土、生活様式に大きく規定されます。その点、ベルギーにおける建築の根本概念は、私がこれまで学んできたものと異なるところが多かったので、自分の常識を揺さぶられるという得難い経験をしました。この経験は、自分の価値観を相対化するうえでとても重要だったと思っています。

 

お二人にとっては、このプログラムが人生を変える少なからぬきっかけになったようですね。今後も、企業研修で学んだ教訓を糧に活躍されることを期待しています。

 

*ヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム(日欧産業協力センター)
日本の理工系学生を対象とした、一年間の奨学金付プログラムです。 欧州での4ヶ月間の語学研修と8ヶ月間の企業インターンシップから成り立っています。応募は毎年5月頃に開始、翌年の4月からの派遣となります。


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