Wichan Eiadthong博士を悼んで

Wichan Eiadthong博士を悼んで 

 

本学卒業生でカセサート大学林学部助教授の Witchan Eiadthong 博士が、5月4日、亡くなりました。心から、お悔やみ申し上げます。

Wichan 博士は、1995年に、本学大学院農学研究科農学専攻博士後期課程に入学され、果樹園芸学研究室で、マンゴーの品種生態に関する研究を進め、1999年に博士号を授与されました。帰国後は、カセサート大学林学部で、講師・助教授として、研究・教育に従事され、その間、本学を含む多くの日本の研究者と共同研究を行っています。2015年からは、本学が開始した、日アセアン科学技術イノベーション研究拠点プロジェクト(JASTIP)の中核メンバーの一人として、活躍されており、今後も、その豊かな知識と経験により、日ASEANの懸け橋となって、共同研究や国際教育プログラムに貢献して頂けると期待していました。Wichan博士の早すぎるご逝去を悼むとともに、本学の関係者にWichan博士の思い出を語ってもらいました。

 

JASTIPとWichan博士  神崎 護 (京都大学農学研究科) 

カセサート大学林学部森林生物学科のWichan Eiadthong 博士の突然の訃報に接したいへん驚いている。京都大学で2000年3月に博士号取得した経緯もあり、1990年代から京都大学とカセサート大学の共同研究に参加し、有用植物の探索に協力していただいた。

樹木学、植物分類学、のエキスパートであるとともに、博士論文で取り組んだマンゴー属の研究や、さまざまな有用植物の研究に精力的に取り組んでいた。2015年からスタートしたJASTIPでは、タイ国内のアカネ科植物の機能性有機物の探索プロジェクトに参画してもらい、タイ、インドネシア、日本の共同研究に尽力していただいた。このプロジェクトは、もうすぐ5年間のプロジェクト期間を終え、第二フェーズに移行することがほぼ決定しているが、 ASEAN全体を視野にいれた研究プロジェクトは、博識多彩な彼の協力と貢献なしでは成しえなかっただろう。第二フェーズにむけて体制を整えつつある時に、彼を失ったことは非常に残念である。ここに謹んでお悔やみ申し上げるとともに、今後も彼の業績を生かして、プロジェクトをなんとか発展させていきたいと思う。

 

京都大学とWichan博士  上高原 浩(京都大学農学研究科) 

Wichan Eiadthong博士とは、彼がまだ京都大学で博士号取得する頃、互いに20代後半からの付き合いでした。私が京都大学の助手に採用され、中坪文明教授のタイの希少林産物探索プロジェクトに参画させて頂き、彼と共にタイ国内を隈無く歩きまわりました。Wichanを頼りにプロジェクトは進み、彼の植物に関する無尽蔵の知識に尊敬の念さえ抱いたのを忘れることができません。

私は有機化学を専門としていたため、このようなフィールドワークを行なった経験がありませんでしたが、Wichanとの貴重な経験を経て、研究に対する視野が広がり、東南アジアの国々に対する理解が進んだと思います。様々な専門で活躍されている先生方と、彼を通じて知己を得ることが出来たことも誠にありがたいことです。

不思議なもので、暫くはタイでの研究から遠ざかっていたものの、2014年に久しぶりにBangkokで彼に会う機会を得ました。JASTIPプロジェクトでWichanとの共同研究を再開することができたことは決して偶然ではなかったと思います。これも、彼のネットワークの広さと人徳があったからだと思います。

ごく最近まで研究に関するメール等で頻繁にやりとりを行なっていましたが、2020年4月23日に脳腫瘍の手術を受けた後、5月4日に急逝してしまったとの連絡を奥様から受け、全く信じられない思いです。本当に大切な友人・研究者を失ってしまいました。タイだけではなく世界にとって大きな損失です。私とほぼ同い年、52歳という若さで突然亡くなった彼の冥福を祈ると共に、大黒柱を失ったご家族、残された奥様、二人の息子さんを今後も見守っていきたいと思っています。私の手元には、彼との共同研究に関するデータが残されています。何とか成果を出して彼に捧げたいと思います。

 

ASAFASとWichan博士  竹田晋也(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究研究科) 

Wichan Eiadthong博士は、1995年に京都大学農学研究科に入学され「タイのマンゴー属植物およびマンゴー品種の類縁関係」の研究をはじめられました。1995年5月には東南アジア研究センターの客員としてBuared Prachaiyoさんも来日されていて、大学での飲み会や芦生などでご一緒させていていただきました。Wichan Eiadthong博士は来日したばかりなのに京都の植物のことを実によく知っておられるのが驚きでした。それから、いろいろなことを教わりました。

母校のカセサート大学林学部に戻られて植物分類学・森林生物学の研究をさらにすすめられたのみならず、より広い関心を持って民族植物学研究も深められました。

2017年8月から10月に、招へい研究員(カウンターパート:小坂康之准教授)としてASAFASに滞在されたときには「タイにおける木本性ツル植物の分類、保全、民族植物学的研究」をテーマとして研究をすすめられ、10月に香川大学で開催された日本熱帯農業学会ではタイにおける漆掻きについても報告をされました。地域の歴史や文化も射程に入れたWichan Eiadthong博士の研究は、年齢を重ねるほどにさらにその深まりと広がりを増してゆくとだれもが期待していました。

今回の突然の訃報に接し、驚いています。プラシーマハータート ウォラマハーウィハーン寺での読経一日目の5月7日は満月の仏日でした。読経が始まった18時(日本では20時)、東山にかかった大きな満月を見上げて合掌いたしました。ご冥福をお祈りします。

 

 


pagetop
Search